契約書その他重要文書の訂正方法 「訂正印」と「捨印」
司法書士の仕事では、印鑑のついた契約書その他重要文書を取り扱うケースが多々あります。
私がこの業界(司法書士業界)に入る前までの仕事では、文書をPCで作成することが殆どでしたが、この業界に入って以降、「手書き」で文書を作成する場面が非常に増えました。
しかし、私は字が微妙に下手なので、仕事上、「手書き」で、何らかの文書を作成するときは、もう少し「字」が上手ければなぁ。と思うことが多いです。
この業界に入った時に、最初に勤務した司法書士事務所では、私の書いている字が微妙に下手だと、同僚たちの軽いネタになっていました。
ネタになるほど下手ではない、と当時の自分は思っていたのですが、そこの事務所は全体的に字の上手い人が多かったので、ネタになったのかな…と今は解釈しております。
『「字」には、書いた人の「人となり」で出る。』
という趣旨の言葉が、世間で言われることがあります。
この言葉、一体、誰が考えたのでしょうか。非常に困っています (^-^;
私が手書き文書を作成するとき、自分の文字を見てはこの言葉が脳裏を横切り、ひとり自己嫌悪に陥ることがあります。
基本的に私は、自分の気持ちを伝えたいとき、「手書き」をしたい。
という考えを持っているので、封筒やはがきの宛名書き、暑中見舞いや年賀状を作成するときは、非常に悩みます。
ですが、字のクオリティーが気になってしまい、
思案の結果、結局PCに頼ってしまっているのが、現状です。
フォント「HG正楷書体ーPRO」には本当にお世話になりっぱなしです。
また、司法書士は、役所に何年間も保管される文書を毎日のように作成します。
中には、後々その書類が裁判の証拠として開示されることもありうるので、
裁判になった時に、
「しかし、この書類を作った司法書士は、字が下手だな…」
などと、裁判官や当事者に思われないように、
たとえ下手でも、頑張って丁寧に書くように努力はしているつもりです。
さて、前置きが少し長くなりましたが、
表題の「契約書その他重要文書の訂正方法について、記事を書きたいと思います。
契約書やその他法律が絡みそうな重要な文書には、修正液や修正テープで訂正することは一般的にNGです。
かといって、契約書その他重要文書の訂正方法は、法律上きちんとした決まりがあるというわけではありません。
そのため、一般的な通例として、世間で使われている「訂正印」もしくは「捨印」という訂正の方式で、皆様、文書の誤字を訂正していらっしゃいます。
まず、私が知っている「訂正印」での訂正方法を3つご紹介いたします。
☆訂正印での訂正方法1はこちら↓↓↓です。
(たまに見かける方法 ---- 法令上にも明文がある。)
こちらの方法は、たまに見かける方法で、
訂正箇所に二重線をひき、正しい字を近くに書いて、欄外の余白部分に自分の印鑑を押して、その印鑑の近くに「〇字削除、〇字加入」などと記載して、訂正をする方法です。
こちらの方法は、法令上の明文で規定されており(商業登記規則48条3項)、一応商業登記の手続き上では、公式化されているものです。
また、訂正前の誤字がわかりやすいという利点があります。
しかし、「〇字削除、〇字加入」の記載が必要なため、訂正する文字数が多ければ多いほど、文字数のカウントが面倒になるという欠点があります。
☆訂正印での訂正方法2はこちら↓↓↓です。
(一般的によく見かける方法---法令上には明文がない(多分))
訂正(削除)したい文字に二重線をひき、その文字の上部に訂正(加入)した文字を書き、訂正箇所に直接印鑑(訂正印)を方法です。
この場合、「〇字削除〇字加入」という言葉を記載しなくてもよいので非常に簡単です。一般的にも広く使われている方法です。
ただし、あくまでも通例であり、この訂正方法は、法令上の明文化されていません(多分です)。
また、誤字が印影で見えづらくなってしまいます。
しかし、私も殆どこの方法で文書の訂正をしており、特に問題になった時はありません。
☆ 訂正印での訂正方法3はこちら↓↓↓です。
(めったに見られないもっとも堅い方法)
こちらの方法は、めったに見られませんが、「遺言書」を自分で作るときの訂正方法として、民法968条2項という条文に規定されているものです。私が知っている訂正方法では、最もお堅いものです。
「遺言書」を作る時はこの方法で訂正しなければ、訂正は原則認められません。
したがって、上記の方法1や方法2で「遺言書」を訂正してもNGです。
ですが、一般社会での契約書その他重要文書を、この方法で訂正しているのを私は未だ見たことがありません。
次に「捨印」です。
「捨印」とは、端的に言うと↓↓↓のようなものを言います。
捨印は、「あらかじめ」文書の欄外の余白部分に印鑑を押しておき、事後の訂正をしても構いませんよ。ということを同意する趣旨の印鑑です。
例えば次のような場面で、司法書士にとって、捨印は非常に便利なものです。
司法書士の仕事をしていると、お客様が既に自分で作成した書類を預かるときがあります。
ですが、預かった書類を後でよく確認してみると、誤字や手続上記載が必要な文面が欠けている時があります。このような場合に捨印があると、わざわざ誤字1つの為に、お客様の時間を煩わせてまで訂正印を押してもらう必要がありません。
ちなみに上記のケースは、このように訂正します。
「訂正印での訂正方法1」と同じ結果になります。
しかし、捨印はその取扱いに注意が必要です。それは事後に本人が知らないところで文書を変えてしまうことができるからです。
誤字や、手続き上の不備を補正するための文書訂正であればいいのですが、悪意のある文書の書換えも考えられます。
例えば、この↓↓↓ような訂正もできてしまうということです。
言っていることが全く逆になっています。
このケースは極端すぎますが、捨印があれば、このようなことも事実上可能になるわけです。
例えば、売買代金額の桁を一桁増やしたり、減らしたり・・・、など悪質なことも考えられます。悪質な場合であれば、文書偽造罪として訴えることも可能ですが、それでもやはり印鑑を押す当の本人も注意が必要です。
胡散臭い人が捨印を要求してきたら、要注意です。
以上が、契約書その他文書の一般的な訂正方法となります。
実は、私が司法書士業界に入るまでは、私も正直、「訂正印」と「捨印」の違いをよく理解しておりませんでした。しかし、この先、何らかの重要文書に自分の印鑑を押印しなければならない時、必ずこの知識はあったほうがいいと思いますので、ご存知ない方はご参考になればと、ご紹介させて頂きました。
本日は長文になりましたが、最後まで懲りずに読んでいただいた方、本当にどうもありがとうございました。
では、また次回もよろしくお願いします。
司法書士小野事務所ホームページ https://www.shihoushoshi-ono.jp/